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〈映画レビュー〉「ブータン 山の教室」人生迷い悩んでいる人に見てほしい

とても良い映画に出会えました。

映画「ブータン 山の教室」の感想です。

物語は淡々と進み、大きな感情の波があるわけではありません。

がしかし、心にとーっても響くのです。

じんわ~り、いつまでも。

まずはこの映画のストーリーからご紹介します。

ネタバレありますのでご理解の上お読みくださいませ。

ブータン 山の教室」ストーリー

舞台はブータン王国

ブータンは、北は中国のチベット、南はインドに挟まれており、大きさは九州と同じくらいなのだそう。

首都ティンプーに住む主人公のウゲン(シェラップ・ドルジ)はどこにでもいるような今どきの青年です。

教師をしていますが「自分は教師に向いてない、何かを成し遂げたいんだ」と言い、オーストラリアでミュージシャンになることを夢見ています。

そんなある日、上司からルナナ村への赴任を言い渡されます。

ルナナ村はブータンの北部、標高4800mに位置する人口56人の小さな町。

携帯電話は繋がらず、電気も通っていない僻地にある学校です。

ウゲンは仕方なくルナナ村へ行くことを決めますが、そこでの生活がウゲンの気持ちに大きな変化をもたらすのです。

ウゲンの心の移り変わりと成長

首都ティンプーで生活しているウゲンは、教師の仕事にやりがいを見出せずにいます。

友人や恋人と夜遅くまで遊び、朝は遅くまで寝ていて祖母に嫌味を言われる…なんてところは、日本でも良く見られる光景ではないでしょうか。

携帯電話を持ち、耳には常にヘッドホン、携帯音楽プレーヤーは必需品といった感じ。

ルナナへは 村から迎えに来た2人の若者、ミチェンシンゲとともに向うのですが、道中も常にヘッドホンを付けています。

途中、とある夜に焚火を囲みながらミチェンとシンゲが歌を歌っています。

ウゲンは「何の歌?」と尋ねると、ミチェンは「ヤクに捧げる歌」について説明します。

そして「先生も一緒にどうですか?」と誘いますが、ウゲンは「やめておきます」と言いヘッドホンを付けるのです。

ルナナ村へ到着し学校へ案内されると、そこは黒板もなく、埃だらけの教室。

住む部屋には小さな鍋とカップが数個、窓はガラスではなく伝統紙に覆れています。

ウゲンは村長にこう話します。

「僕には無理です。帰りたい、自分は教師を辞めるつもりだった」

それを聞いた村長は「無理強いはできない」と、ミチェンらにウゲンが町に帰れるよう支度をさせます。

ルナナ到着から数日が経ち、「町に帰る準備ができた」との知らせを受けますが、ウゲンは「残ります」と言うのです。「まだ授業が残っているので」と。

ウゲンはすっかり村に馴染み、村の人たちとも良好な関係が築けています。

なんというか、楽しそうに毎日を送っているのです。

ティンプーにいた頃、教師辞める気でいたウゲンですが、ルナナでのウゲンは授業にも熱心で、生徒も先生が大好きな様子。

「自分は教師に向いていない」と思い込んでいたけど、環境が変わるだけで仕事に対しての考え方も変わるんだな、と考えさせられました。

また「村一番の歌い手」と言われる女性”セデュ”との出会い。

これもウゲンの心を変えた一つの要因なのでしょう。

セデュと初めて出会うシーンや歌を教えてもらうシーン、とても素敵なのです。

とにかくウゲンは、ルナナ村でとても大切に扱われます。

村人から貴重な食材などを差し入れしてもらったり、村長の家ではお正月にしか出ないようなご馳走や木のお茶碗でおもてなしをされたり…

ある時、ミチェンはウゲンにこう話します。

「先生が温かく快適に過ごせることが村人全員の願いです」

ウゲンはそんな村人たちの思いを受け入れ、自分の「居場所」をルナナに見出したんだろうな。

最初とは比べ物にならないくらい変わっていくのです。

 ブータンの美しい大自然と歌声に癒される

この映画のみどころの一つに、ブータンの美しい自然があります。

首都ティンプーからルナナ村へ向かう道中、美しい山並みや川、鳥の鳴き声などにとっても癒されます。

ルナナ村へもうすぐ到着するころ、美しい景色を背景に、ミチェンはこう話すのです。

「小さい頃は山は全部雪に覆われていた。

最近は全く白くならない。

地球温暖化

難しいことはわからないけど、雪山には雪の獅子が住んでいる。

雪はどんどん減っている。

雪の獅子は家を失ってしまう。

この世界から消えてしまいそうで心配です」

映画監督の パオ・チョニン・ドルジ氏は「地球温暖化」の影響について次のように話しています。

ブータンには多くの氷河があり、それがインドやバングラデシュなどの亜大陸の主要な川に流れ込んでいます。すべての氷河が驚くべき速さで溶けているのは、とても悲しいことです。氷河の融解は、ヒマラヤの湖の氾濫を引き起こしています。数年前、ルナナの湖があふれて崩壊し、多くの家が流され、ルナナでは多くの人が亡くなりました。

パオ・チョニン・ドルジ監督の言葉:https://bhutanclassroom.com/interview.html

このような温暖化による影響は、世界各地で現れていると思いますが、全てがニュースになるわけではありません。

私たちの知らないところで被害に合われている人たちがたくさんいる…。

何不自由なくモノにあふれた世の中で生活しているのに、時々満ち足りなさを感じる自分が恥ずかしくなりました。

ブータンの美しい風景と一緒に印象に残るのが 『ヤクに捧げる歌』 です。

ミチェンとシンゲが歌う場面、こんな歌詞がありました。

「純粋な心には澄んで謙虚な心には幸せがついてくる」

座右の銘にしたいくらい、素敵な言葉です。

また、村一番の歌い手、セデュの歌声がすばらしい。
ひとり大自然に向かって歌うセデュの、透き通った歌声と雄大な山並みが本当に美しいのです。

ウゲンが町に帰るシーンでは、村長が 『ヤクに捧げる歌』 を歌います。

村長はかつて村一番の歌い手だったそうで、妻が亡くなってから歌うのを止めたとのこと。

でも、この時は歌を捧げたんですね。

少しハスキーな村長の歌声、とても心に沁みます…。

 ルナナで暮らす人々と俳優たち

この映画のパンフレットなどで見られるおかっぱ頭の女の子。
キラキラした大きな目が印象的でとても愛らしい。

名前はベム・ザムといい、クラス委員をしてるしっかり者です。

いつも明るく笑顔いっぱいのペムザムですが、お酒とギャンブル漬けの父と祖母と暮らしています。

母親は離婚して別の町に住んでいます。

そんな状況で生活しているなんて、これっぽっちも感じさせません。

明るく素直で家の手伝いもしっかりしていて。

 

他の生徒たちも、とにかくカワイイのです。

みんな純粋で目がキラキラしてて、そこでの暮らしを楽しんでいます。

勉強することを楽しみ、心から望んでいるといった印象。

表情や言動ひとつひとつから伝わってきます。

実際、この映画のキャストにプロはいないと知り驚きました。

ベム・ザムも実際にルナナにすむ村人の一人。

ウゲンセデュはこの作品がデビュー作。

そのような背景が、この物語のリアルさや素朴で自然な雰囲気を出しているんだろうなぁ。

おわりに

ルナナ村に冬がやってくる前、ウゲンは町に戻る時がやってきます。

ウゲンは「まだ授業が残っている」ともう少し滞在することを希望しますが、

村長は「雪が降ると帰れなくなる。また戻ってきて」と。

ウゲンは「外国に行く。多分一生…」と話します。

それを聞いた村長の言葉が心に残りました。

「この国は世界で一番幸せな国、と言われているそうだが、先生のように国の未来を担う人が幸せを求めて外国に行くんですね」

誰もが幸せになりたい、と願っています。

そして、自分の価値を見出すために何かを探し求めている。

ウゲンも、自分の幸せを「オーストラリアで歌手になること」で見出そうとしています。

見終えた後は、じんわりと心にしみる映画でした。

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